みなさんは「イノベーションのジレンマ」という言葉を正しく説明できますか?
- その言葉をはじめて聞いた
- 言葉は聞いたことがあるけど、詳しく意味を知らない
- ビジネス観点でどうして重要視されているかわかならい
MBA流基礎から学べるビジネス用語では、明日から使えるキーワードについて、MBAホルダーが初心者向けにわかりやすく解説します。
ビジネス用語として当たり前に使われることが多くなった「イノベーションのジレンマ」について、勉強していきましょう。
イノベーションのジレンマとは
「イノベーションのジレンマ」といえば、今年惜しまれつつ亡くなったハーバード大学のクレイトン・クリステンセン教授が書いた世界的ベストセラーです。
みなさんは読んだことがありますか?
もし、まだという方がいれば、今もなお読み続けられている不朽の名作なので、ぜひ読んでみてください。
イノベーションのジレンマについて、その定義はこうです。
イノベーションのジレンマとは、業界トップになった企業が顧客の意見に耳を傾け、さらに高品質の製品サービスを提供することがイノベーションに立ち後れ、失敗を招くという考え方。
出典:グロービス経営大学院HPより
大企業や既存サービスプレイヤーにとって、新しい事業や技術が出始めた当初は市場規模が小さく、投資の合理性が低いためあまり魅力的にうつりません。
既存製品の強みや特色を改良すること(持続的イノベーション)に目を奪われてしまった結果、顧客の別のニーズに気づかなくなってしまうのです。
その結果、既存プレイヤーは新興市場への参入が遅れ、既存の商品より機能は劣るが新しい特色をもつ新商品(破壊的イノベーション)に大きく遅れをとってしまいます。
このように、持続的イノベーションに注力する既存プレイヤーが、破壊的イノベーションをもつ新興プレイヤーを前に力を失ってしまうメカニズムが「イノベーションのジレンマ」という経営理論です。
イノベーションのジレンマの事例
イノベーションのジレンマの事例として、「カメラ」の変遷がわかりやすいと思います。
1990年代、写真はフィルムカメラで撮影するのが主流でしたが、そこにデジタルカメラが登場しました。
デジタルカメラが登場した当時は、画像も粗く、操作性も悪いことから、プロの道具としては使い物にならず、実用的ではありませんでした。
ところが、2000年頃になるとデジタルカメラの改良が進むにつれて、画質がよくなり、操作性も改善されたことで、徐々にフィルムカメラ市場をデジタルカメラが取って代わるようになりました。
フィルム市場を独占し続けたコダック社は、デジタルカメラという破壊的イノベーションにより経営が立ち行かなくなり、経営破綻しました。
ところが、このデジタルカメラ市場も破壊的イノベーションにより大ダメージをうけることになります。
デジタルカメラメーカーは、楽に持ち運びができ、きれいに写真が撮りたいというニーズに応え、製品の改良(持続的イノベーション)に取り組んでいました。
そこに登場したのがカメラ機能付き携帯電話です。
カメラ付き携帯電話が登場した当初は、ちょっとした写真がとれる、画像の粗い付随的な機能でした。
しかし、スマートフォンが登場する頃には、画質、サイズともに高品質の写真撮影がスマホで撮影できるようになったことで、デジタルカメラメーカーは現在苦戦を強いられています。
このデジタルカメラの事例も、既存プレイヤーが持続的イノベーションに邁進した結果、破壊的イノベーションの対応に遅れてしまった代表的なケースです。
持続的イノベーションと破壊的イノベーション
では、持続的イノベーションと破壊的イノベーションの違いについて確認しておきましょう。
持続的イノベーションとは
【持続的イノベーション】
顧客のニーズに応えて従来製品の改良を進め、ニーズのないアイデアについては切り捨てるような従来製品の改良を進めるイノベーション
デジタルカメラメーカーが行った、画素数を改善していくような製品改良のアプローチを「持続的イノベーション」といいます。
革新的なものもありますが、漸進的で連続的な進歩が多いです。
破壊的イノベーションとは
破壊的イノベーションとは、確立された技術やビジネスモデルによって形成された既存市場の秩序を乱し、業界構造を劇的に変化させてしまうイノベーション。
一方、デジタルカメラにとって、スマートフォンやカメラ付き携帯電話の存在が「破壊的イノベーション」です。
破壊的イノベーションは、当初既存製品に性能が劣るものの、既存の製品・サービスにない使い勝手のよさがあり、低価格であることが多いです。
アフターコロナでイノベーションに注目する理由
では、なぜ今イノベーションのジレンマに注目するのでしょうか。
それは、コロナウィルスの影響で、破壊的イノベーションが起きる可能性が高まっているからです。
ここまで、イノベーションのジレンマ、持続的イノベーション、破壊的イノベーションについて説明してきましたが、今回のコロナ禍で社会全体が自宅自粛になったことで、消費者のニーズが劇的に変わりました。
たとえば、これまでは移動するという消費者のニーズに関して、より早く、より便利になる持続的イノベーションが求めていました。
リニアモーターカーで「東京−名古屋」間を1時間以内で移動できるようになったり、相互乗り入れや路線延伸でより効率的に移動できることに価値がありました。
しかし、今回のコロナウィルスをきっかけに、「移動しないでサービスを享受する」という消費者の新しいニーズが生まれました。
「オンライン飲み会」に代表されるように、現地に行くことでしか成立しなかった消費者のニーズは、一気に多様化したのです。
その結果として、アフターコロナの世界では破壊的イノベーションがどんどん市場を席巻することになるでしょう。
今は、まだまだ機能が充分ではないかもしれませんが、そのうち機能やサービスが拡充されることで、既存市場を侵食していくことになります。
既存プレイヤーでビジネスをされていた方は、「コロナが終わったら以前の状況に戻る」という考えを一回ゼロベースに戻し、アフターコロナの世界で必要とされるニーズが何かを改めて考えてみる必要があるのです。
さいごに
「イノベーションのジレンマ」について、理解が深まったでしょうか。
イノベーションのジレンマという考え方は1997年に提唱されたもので、すでに20年以上も語り継がれています。
アフターコロナの世界では、既存サービスをこれまでの延長線で改善していくのではなく、「消費者の真のニーズがどこにあるか?」を今一度見つめ直す必要があります。
その際に、イノベーションのジレンマという考え方はとても有効な理論です。
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就活、転職の際には、エントリー先の企業のビジネスモデルがどのような収益構造になっているかについて、できるだけ理解を深めておきましょう。